どこよりも早い新監督パウロ・フォンセカ戦術研究

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『勇気だ、常に選手たちに見せて欲しいのは試合を作るための勇気なんだ。自分たちのペースでプレーし続けるのは難しい。しかし、常にボールを持ち、攻撃的で、試合の主導権を握る勇気を持って欲しいんだ。それこそ私が選手とチームに求めるものなんだよ』   ――パウロ・フォンセカ

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ローマは新監督を国外から求めた。

求めたとは多少語弊があるかもしれない。この数週間の御家騒動で有望なイタリア人監督がローマを敬遠した結果でもあるのだから。しかし、彼はローマを選んでくれた。発達したインターネットを通じて首都の炎上を見ていたにも関わらず。

パウロ・フォンセカは、2年前にはアトレティコマドリー行きも噂された46歳の若い監督だ。
昨シーズンのチャンピオンズリーグでローマを破っていたならば、おそらく今頃はウクライナよりも遥か彼方のステージにいただろう。これは廻り巡ってきた運命のようなものを感じる。ウクライナだから、シャフタール・ドネツクだから成功したんじゃないのか?彼の能力を疑問視する声も聞こえるが、それよりも、今最も先進的な戦術理論を持つポルトガルの監督である期待感の方が勝っている。

現在フォンセカはミラノに滞在していて、本日ロンドンに移動してパロッタ会長との会議に参加する。彼の最初の言葉を聞くのはもう少し後になるだろうか。その間、親愛なるロマニスタ諸氏には、フォンセカのサッカーを知ることのできる素晴らしいテキストをご一読頂きたい。

Shakhtar Donetsk and Europe’s coolest 4-2-3-1(ヨーロッパで最もクールなシャフタールの4-2-3-1)
執筆者はエドゥアルド・シュミットさん。ツイッタープロフィールによると、UEFA Bコーチライセンスを持つプロの分析家とのこと。ちなみに、UEFA Bはトッティが取得を諦め、カッサーノが受講をバックれたライセンスで、それだけでシュミットさんが、この2人よりも優れた技術者なのが判るだろう(笑)

ロマニスタからすれば、監督は決まったけれど、ではいったいどのような戦術なのだろうか、ディフランチェスコのように選手が理解しきれない設計図を広げるのではなかろうか?そのような不安があると思う。でなければ、サー・クラウディオ・ラニエリの続投になっていたはずだからだ。では、先に書いておこう。

新しいミステルはエウゼビオ・ディフランチェスコと似たコーチングメソッドを持っている。

以下はシュミットさんの素晴らしい論文から特にEDFに類似した部分を抜き出したものである。内容の一部を切り取るのは、著者に対して失礼だとは承知しているが、ロマニスタに向けたテキストサイトの必要な引用の範疇であることをご理解頂きたい。


君は決して、この中盤のブロックを破る事はできない。

組織化(Organization)はパウロ・フォンセカの好む言葉だ。少なくとも、怪傑ゾロのチームが攻守の組織について話す時、あなたはそのような印象を得るだろう。組織化は彼の理想的な試合において重要な定義なのだ。

シャフタールドネツクがどのような種類のプレッシングを用いるのかを知る事でこの仮説は裏付けられる。フォンセカは4-2-3-1をベースにしながら、(守備フェーズでは)中盤フラットの4-4-2よりも4-2-2-2を使う。

相手選手の中央のパスコースは、フレッジが押し上げると同時に、タイソンかフェレイラ、もしくは2人同時にプレッシングすることで防御している。

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ステパネンコ自身も危険な選手やボールにプレスを掛ける事はあるが、主な仕事は他の選手の移動によって生じたスペース(ギャップ)を埋める動きである。例えば彼はセンターバックやサイドバックのリアクションを見て、4バックに入る事も出来る。

*フォンセカの基本的なプレッシングスタイル。

[如月の解説]
この陣形はシンメトリーの4-2-2-2になっていて、ローマで例えるならば、ステパネンコがエンゾンジ、フレッジがクリスタンテとなるだろうか。ただ、これですぐに思い出すのは2017-18シーズンの後半にディフランチェスコ監督が、度々ストロートマンをこのようなプレス要員として使ったことだ。ストロートマンはその役割を『押しつけられた』と感じてローマを出て行く要因となったが、今季トップ下からスムーズにアンカーへの適正を見せたクリスタンテならば、この仕事を上手くやるかもしれない。

両サイドハーフが中央を絞ると、相手のボールホルダーは垂直にパスを出す事が出来ずに、左を迂回するか(画像では右)、罠の張られた右にパスを出す。相手のコースを限定するというよりも、誘導して獲りに行くスタイルは、そこからのショートカウンターを主体とした攻撃の予備動作だ。

4-2-3-1という基本フォーメーションこそサー・クラウディオ・ラニエリと同じだが、ラニエリやディフランチェスコが中盤に受け皿のブロックを敷いたのに対して、フォンセカは中盤でより積極的なプレッシングをしている。

これが形になれば、今シーズンの第36節ユヴェントス戦における2点目のようなロングカウンターよりも、5メートル、もしくは10メートルは高い位置で起点を作るサッカーが見られるようになるはずだ。

『基本的な考えは、チームを常にピッチの高い位置に置くという事。それでいて常にコンパクトであるという事だ。最終列のディフェンダーから、センターフォワードまでの距離や、両サイド間を狭くしたい。『高く、狭く』それが私のアイデアだ。スペースの密度を高めるからそこコンパクトになるんだ。その状態で私たちの包囲網を通り抜けるのは難しいと思うよ』 ――パウロ・フォンセカ

次は最終ラインに侵攻された際の守備を見ていこう。


特に最終ラインの前のスペースを狙うパスには積極的なアプローチを仕掛ける。そのようなボールが入るならば、チームは一斉に絞り、陣形をコンパクトに保つ。(ボールを受けた選手は)ほとんどポジティヴなパスコースを見つけられないだろう。

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4バックは直接ボールに関与しないが、ラインを押し上げて、オフサイドポジションに入ることで、縦パスの選択肢を奪う。またその際、守備的ミッドフィルダーなど中央の選手がプレスに参加するので、そのバランスを取るために、最も近いウインガーが最終ラインにドロップバックしてくるのが特徴だ。


[如月の解説]
図は2017年9月のナポリ戦のもの。青丸がナポリ。全体的にコンパクトなまま、最終ラインの前にボールが入った瞬間に、オルデツとダリヨ・スルナがパスの受け手と出し手にそれぞれ寄せる。この時点でフィニッシュの位置にいるストライカーはオフサイドに仕留められており、更にボールホルダーはオルデツとステパネンコに挟まれて、ネガティヴなパスしか選択できなくなっている。

ローマに置き換えてみると、今季はファシオがボールを持ち上がるシーンを度々観たが、これは個人の判断によるもので、マノラスがアタックをして、ファシオがラインをコントロールする司令官役(comandante)というのが基本の形だった。新体制でマノラスは同じ仕事でフィットするはずだが、ローマを去るならば、別の人選をしなければならない。こういったアグレッシヴな守備にブラジリアンは良く馴染む。そう、ファン・ジェズスだ。

また、フロレンツィには上下運動だけでなく、スライドの守備も求められる。フォンセカのサイドバックには、更にインテリジェンスが必要となる。ここで守備のできないルカ・ペッレグリーニが左サイドバックに定位置を確保するとは思えない。コラロフが去るならば、シャフタールから主力級の同ポジションを補強する方が確実だろう。

新しいローマを観た時、局面によっては5バックのようなベタ引きした消極的なプレーに映るかもしれないが、今後は、誘導する為の罠である可能性も考慮してぼくたちは論じる必要がある。

図の説明に戻ると、ナポリの左サイドバックが大外でフリーになっているのが判るだろう。これがフォンセカの仕掛けた誘導の罠で、ウインガーのマルロスが最終ラインをまで下がっているので、サイドバックがボールを保持した場合、すぐに離さなければ次のプレッシングを受ける。それが次の様な形である。


彼らは中央でボールを囲うだけではなく、ウイングエリア(サイド)に潜在的なオープンスペースの存在を知っており、そこにプレッシングの罠を仕掛ける。フレッジが積極的にサイドにプレスを掛ける為、このような状況を頻繁に作り出せるのである。そして、同時にステパネンコは(スペースの)カヴァーリングの為に中央に移動する。

セントラルとアタッキングミッドフィルダーで、パスの受け手をタッチラインに追いやる効果的な守備を行い、オルデツはディフェンスラインから出てきてプレッシングをサポートする。シャフタールはサイドに網を張る事で、ボールがラインを割るか、ボール奪取を試みる。

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この際、最もボールから離れているサイドの選手がカウンターの予備動作でやや高いポジショニングをして、同時に、フェイレイラかタイソンのどちらかが、プレスからのバックパスやこぼれ球を得るポジショニングへ、もう1人はカウンターの為の位置取りをしている。相手が後方に戻すのであれば、再びこのプレスを続ける事ができるだろう。


【如月の解説】
図は2017年9月のナポリ戦のもの。青丸がナポリ。こうしてボールを誘導して、サイドで詰める手法も2017-18シーズンの後半にディフランチェスコは完成させていた。我々はロレンツォ・ペッレグリーニとストロートマンが度々相手をサイドに追い詰める姿を観たはずだ。これについては、ぼくが昨年LIVERPOOL FC LAB.に拙文を寄せたもので既に言及している。
KOPがロマニスタに直撃取材!~ローマを知りリバプールを知れば百戦危うからず~

【総括】
何故、新シーズンをこの続きから始められなかったのか。今となってはとても悔やまれるが、ローマがもう一度この時と同じ戦い方で復活しようと考えているのは明白だ。時を巻き戻す・・・それは冷めたスープを温め直すようにも見えるが、ベテランたちが去り、チームは真の意味で生まれ変わらなくてはならない。フロレンツィのキャプテンシーを議論している時間はもうない。次のピッチにデ・ロッシはもういない。

しかし、フォンセカが来た意味は戦術以外にもある。
彼は、選手の故障を防ぐレイモンド・フェルハイエンの提唱するトレーニングメソッド『ピリオダイゼーション』を学んでおり、これは来季の故障者の軽減や、ランニング距離が必ずしも勝利と比例しないという効率化に繋がるはずだ。

また、彼はウクライナ語もロシア語も話せない状態で、12年ベンチに座っていた絶対君主ルチェスクの後任としてシャフタールにやってきた。更には、当時ウクライナは親ロシア派とウクライナ政府との内戦状態で、シャフタールの外国人選手たちには国外退去勧告でチームを離れ、ホームスタジアムも家も、そしてファンすら失った状態だった。しかしフォンセカは、残った選手たちだけで沈み掛けた船を修繕して、1年でチームをチャンピオンズリーグベスト16に導いた。残った選手だけで作り直す。これは今のローマがやるべき事にとても似ている。

あくまで想像の域を出ないが、ローマのオファーを知り、そのクラブの現状を知ったフォンセカはこう考えたのではなかろうか。

『なあに、あの時のウクライナに比べればなんの問題もないさ』

ローマ速報はパウロ・フォンセカを全面的に支持する。

<了>

*このテキストを書くにあたり、以下のネット記事を参考させて頂きました。
Paulo Fonseca – A tactical prodigy who evolutinised Shakhtar
In Quotes: Paulo Fonseca in his own words

 

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