現在静かにローマが燃えている。結果が出ない時期もチケットの売り上げは好調で、この現象はプレミアリーグのようにも見える。試合2日前の時点でホームチケットは残り2000枚を切り、売り上げ推移から完売が予想されている。一方でトリノのためのヴィジターチケット4000枚はまだ346枚しか売れていないのだという。このニュースで世界中のローマファンは、今現地のティフォージのメンタリティに何か変化が起こっていることを理解しつつある。彼らを変えたのは、現在の順位を鑑みればローマの勝利が理由とは言えないだろう。見えないものがロマニスタを変えはじめている。それはモウリーニョがメディアに叩かれたとき、ウルトラスグループが抗議のバナーを手に持ったときに始まった(通常バナーは壁などに掲げられる)。ここにきてローマのローマ人のためのローマという実に原理主義的なメンタリティは少しずつだが変化している。それを変えたのが誰なのか、説明する必要はないだろう。この前日会見を読めば、その人物が様々なクラブで物議を醸しだしてきた挑発者ではなく、愛すべき理想主義者なのだとわかるはずだ。ローマは、いや控えめにぼくは彼のようなリーダーを待っていた。
ユリッチ率いるトリノはマッチアッププレーを得意とするタフなチームです。どのような試合になると予想しますか?
モウリーニョ監督「もちろんタフな試合が予想される。自分たちのスタイルで守ってくるチームだ。といっても同じようなスタイルのチームは他にもあるから、トリノがワンアンドオンリーという意味ではない。ただ、その中でも好例だ。また、統計からも相手にチャンスを作らせないチームであることが判る。そういった理由でタフな試合を予想している。得点するには私たちが前に出ていくしかない」
木曜日のカンファレンスリーグでは左サイドバックが不在で3バックを敷きましたが、明日の試合も3バックで戦うのでしょうか?
モウリーニョ監督「良い質問だ!だが答えたくないね。センターバックを置くか、ウイングバックにするのか、監督の立場からは答えたくないのは当然だ。ただ、今論点はそこではない。ヴェレトゥが累積、クリスタンテがCOVIDポジティヴであることを除けば負傷者の状況は改善されている。そのために懸念はボランチポジションに変わった。今私たちの中盤にはクリスタンテとヴェレトゥという絶対的なスターターとヴィジャールという質の高いオプションを欠いている。一方でヴィニャ、カルスドルプ、スモーリング、クンブラ、マンチーニが使えることで複数のフォーメーションを検討できるようになった。木曜までは左サイドバック不在のため、ひとつのフォーメーションに固執せざるをえない状況だった」
明日のオリンピコは来月のインテル戦同様にチケットが完売しました。ローマのホームゲームが完売になる状況を予想できましたか?このシチュエーションは対戦相手にとって厳しい環境となると思いますか?
モウリーニョ監督「ロマニスタの情熱については最初からすべて知っていた。トリゴリアに来た初日から彼らの愛と情熱を感じていた。イタリアのサッカー文化は、私が直近で体感した英国のように、雨でも雪でも常にチケットが完売になる文化とは比較にならない。だが、こうしてローマのチケットが完売になるという状況はポジティブな進化であり、大きな喜びを感じてる。私たちはオリンピコで負けたこともあるし、良いプレーをしたことも、そこそこなプレーに終始したこともある。ロマニスタはただ勝利だけを観るためにスタジアムに行くのだろうか?いいや違うな。ファンはスタジアムに行くと、常に懸命に努力するチームを観る。選手たちがチームのためだけではなく、観に来ている自分たちのためにプレーしているのが判る。だから、ファンは選手たち、クラブにシンパシーを抱くんだ。でなければ、平日の雨降りの夜にカンファレンスリーグのような、ファンにとってはいまひとつ盛り上がらない大会にあれだけの人が集まるものか。あれがサッカーのあるべき姿だ。満員のオリンピコは私たちがプレーしやすくなるのではない、より美しいんだ。それが本来サッカーのあるべき姿で、私たちは私たちの立場でこのポジティブな状況に責任を持てばいい」
ローマは今季前半の最後15分で7ゴール、後半の最後15分でも7ゴールを決めています。この統計はランダムな結果なのでしょうか?それとも、決定機を待つ忍耐を証明しているのでしょうか?
モウリーニョ監督「そういうことは考えたことがない。だから何とも言えないな。狙ってやっていることじゃないからね。得点するタイミングや耐えることは考えない。サッカーでは常に毎試合1分1秒が得点機だ。だがしかし、最後の笛が鳴るまで信じ続ける、これがローマのメンタリティだと言える。ミランに負けた時も、ナポリと引き分けた時も、ヴェネツィアに競り負けたときでさえ、私はもう終わりだとか、勝てないとか、ハングリー精神が足りないなどとは思わなかった。ジェノア戦が示す通り、私たちは困難でも最後まで勝利のゴールを目指した。これこそがチームの本質を示している」
中盤の人選に悩んでいると思いますが、ジャンルカ・マンチーニをそこで起用するという考えはありますか?
モウリーニョ監督「もちろんその可能性はある。現在チームはマンチーニ、クンブラ、イバニェス、スモーリングと4人のセンタバックが使える。その中で誰かに中盤を頼むならばマンチーニがプレーをするだろう。例えばイバニェスはこれまで左サイドバックでプレーをしたことがあるが、いずれは右サイドバックでもプレーすることになる。ザニオーロをサイドバックにしたり、ヴィニャを前線に置くことはできないが、マンチーニならば中盤の守備的な仕事ができるだろう。マンチーニ、クリスタンテ、イバニェス、ミキタリアンのように万能型のユーティリティプレイヤーがいる。彼らはそこでプレーできる資質だけではなく、異なるポジションでプレーする献身性も持っているんだ。そして、マンチーニはすでに以前ボランチでプレーした経験がある」
<了>
この会見で幾つか興味深いワードがあったので調べてみた。
1)トリノはマッチアッププレーを得意とするタフなチームです(質問者)
2)統計からも相手にチャンスを作らせないチームであることが判る(モウリーニョ)
これを数字で見ることで、実際にモウリーニョがどのくらいスタッツを考慮しているか判ると考えた。前任者のフォンセカ監督は世代的にもスタッツに強く、データを論拠にマジョラルにプレーさせていたのは以前ローマ速報で書いたと思う。ただ、ややスタッツに固執し過ぎて監督としての勘を失ったところはある。ではモウリーニョはどうなのだろうか?特に2)は、単純な得失点だけ見ても導き出すことができる。トリノは総失点が13点でリーグ第二位の守備力だからだ(ちなみにその次がローマの15失点)。ただしこれはぼくが度々書くスタッツのミスリードである。なぜならば、トリノは失点も少ないが総得点も少ないからだ。なのでモウリーニョはもっと違う統計を見ているのではないかと考えた。なので、幾つかの数字を追ってみたい。
ユリッチ率いるトリノはマッチアッププレーを得意とするタフなチームです。どのような試合になると予想しますか?
モウリーニョ監督「もちろんタフな試合が予想される。自分たちのスタイルで守ってくるチームだ。といっても同じようなスタイルのチームは他にもあるから、トリノがワンアンドオンリーという意味ではない。ただ、その中でも好例だ。また、統計からも相手にチャンスを作らせないチームであることが判る。そういった理由でタフな試合を予想している。得点するには私たちが前に出ていくしかない」
マッチアッププレーとはぼくの表現で、正しくはマンツーマンでプレーするという意味だ。これはヴェェローナ時代のユリッチの印象からも理解できる。なのでまずはプレス回数とその成功率を出してみた。
グラフの横軸が13節までの各クラブプレス回数、縦軸が成功回数(図で成功率になっていますが間違いです)となっている。これを見るとローマは見事に類似曲線上に位置しており、これは位置的優位性を重視するモウリーニョのサッカーを端的に表している。逆に言うと、ぼくたちがフラストレーションを度々感じた前線からのプレスの少なさも、この数字から説明できるのではないか?人数を掛けすぎない、深追いをしない、言葉は悪いが『なんちゃってプレッシング』これがローマの被ポゼッションに於ける第一防御方法である。
ではトリノはというと、プレス回数はローマとそこまで開きはないが、成功回数が621回、成功率33%でリーグで2位の優秀な数字を持っていることが判った。つまり、ローマの『なんちゃってプレッシング』に対して、彼らは『奪取型プレッシング』を志向している。これはユリッチのサッカーの印象通りだ。なので、ぼくは彼らが中盤よりも上で強いプレスを掛けると予想した。実際にトリノはミドルサード、アタッキングサードでのプレスがリーグ4位という良い数字だ。モウリーニョの「前に出で攻撃する」という表現は、トリノに対しては(いつものように)ブロックを敷いてはいけないという意味かもしれない。そう考えると、今夜のローマは4-2-3-1ではなく木曜日同様に3バックの可能性が高い。中盤を厚くして、ウイングバックにエルシャーラウィ、カルスドルプといった高いインテンシティの選手を置く——つまり、タレントで殴り合うサッカーを志向するかもしれない。モウリーニョは記者の質問に同調する素振りを見せたが、これはブラフで、マンチーニの中盤起用はせずに、ペッレグリーニを使うという可能性も出てきた。
今節はすでに土曜日の試合でユヴェントスとフィオレンティーナが取りこぼして、ローマにとっては後続を引き離すチャンスだが、それ以上にアタランタに引き離されない為に勝利が必要だ。首位ナポリとの勝ち点差は10、スクデットまだ諦めてないよ。
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