TACTICS/戦術
プレス試行、プレス成功ここでもミキが1位で、ルーズボール回収もイバニェスに次ぐ2位という高い数字です。もしやミキタリアンとは、分身の術を使って各ポジションに一人づついる忍者なのではないでしょうか。
ゴール期待値/Expected Goals
改めて説明しておきます。
ゴール期待値とは?
そのシュートがゴールになる確率=ゴール期待値です。これは距離と角度、当てた体の部位、パスの種類、プレーの状況(セットプレーかオンゲームか)、人の位置関係、攻撃の状況に各データサイト独自の要素や計算を加えた統計値となります。注意としては、あくまで統計なので、ジェコがダイレクトシュート上手いから、同じシチュエーションのシュートでペドロよりも数値が上になるという事はありません。ジェコでもミランテでも同じシチュエーションで同じ1回のシュートを蹴れば、全く同じ期待値が付与されます。
ジェコが10回のシュートで10ゴール決めた場合、決定率が100%なのでゴール期待値が10になるということではありません。その場合、それぞれ10回のシュートに割り当てられた統計による数値の累計が期待値となります。
ゴール期待値は単なる指標なので、これ単体が選手の評価に繋がることは少ないと思いますが、いくつかのデータと比較すると面白いことがわかります。
ゴール期待値とシュート数のベスト3を表にしたものを見てください。
1位 Džeko | 2位 Mkhitaryan | 3位 Mayoral | |
ゴール期待値(xG) | 9.3 | 7.2 | 3.9 |
総シュート数(SH) | 40 | 47 | 14 |
1シュート平均xG | 0.23 | 0.15 | 0.28 |
ジェコは期待値が9.3とチームで最も高いことが判ります。ですが、ここでシュート数を見てみると、ジェコ40本、2位のミキが47本となっています。ローマ速報としては、ここで『ゴールの質』について触れたいと思います。この数字から以下の事が推測できます。
仮説:期待値9.3で総シュート数40本のジェコは、期待値7.2で総シュート47のミキよりも得点の可能性のあるシチュエーションでシュートを打っている
平均値を出すと、ジェコのシュートには1本辺り0.23の価値(質)があり、ミキには0.15の価値があります。これはミキがジェコよりもゴールインする確率の低いシュートを打っているということです。これらはロマニスタならば実際に彼らのシュートを観ているので理解できるでしょう。
この表に実得点を加えてみます。
Edin Džeko | Henrikh Mkhitaryan | Borja Mayoral | |
ゴール期待値(xG) | 9.3 | 7.2 | 3.9 |
総シュート数(SH) | 40 | 47 | 14 |
実得点数 | 7 | 8 | 5 |
期待値との差数 | -2.30 | 0.80 | 1.10 |
これを見ると、ジェコは今季7ゴールで期待値9.3を下回っていることが判ります。一方でミキは期待値を上回っています。これを仮説1と併せて考えると、以下の結論にたどり着きます。
結論:ジェコは得点の可能性の高いシュートを外し、ミキは難しいゴールを決めている
またマジョラルについては、彼が少ないシュート数で5ゴールという打率の高いストライカーであることはOFFENSEの項で書きましたが、期待値3.9を上回る5ゴールという結果は、マジョラルの得点の質が高いという証明になるでしょう。
アシスト期待値/xG Assisted
これはゴール期待値のアシスト版です。同様にゴールに繋がるパスに数字を割り当てたものです。ではこの期待値と実際のアシスト数を表にしてみます。
1位 Mkhitaryan | 2位 Pellegrini | 3位 Karsdorp | |
アシスト期待値 | 6.9 | 5.1 | 3.0 |
実アシスト数 | 8 | 4 | 4 |
期待値との差数 | 1.1 | -1.1 | 1.0 |
これはゴール期待値とゴール数の比較とは異なり、アシストは他の選手が決めるものなので、期待値の差数が大きくなれば、それだけ決定力のあるチームと考えられます。ただ、これはシーズンという長い期間を見ると、だいたい期待値に近い数字に収束しているというのも聞いたことがあります。
参考資料:実アシスト/アシスト期待値
選手 | 実アシスト数 | アシスト期待値 |
Henrikh Mkhitaryan | 8 | 6.9 |
Lorenzo Pellegrini | 5 | 5.1 |
Rick Karsdorp | 4 | 3 |
Leonardo Spinazzola | 3 | 2.9 |
Bruno Peres | 2 | 2.9 |
Jordan Veretout | 2 | 1.3 |
Edin Džeko | 0 | 1.2 |
Pedro | 1 | 1.1 |
Gonzalo Villar | 1 | 0.8 |
Borja Mayoral | 3 | 0.8 |
Roger Ibanez | 0 | 0.5 |
Chris Smalling | 1 | 0.5 |
Bryan Cristante | 2 | 0.5 |
Marash Kumbulla | 0 | 0.4 |
Davide Santon | 0 | 0.3 |
Carles Pérez | 0 | 0.3 |
Amadou Diawara | 0 | 0.1 |
Gianluca Mancini | 0 | 0 |
Antonio Mirante | 0 | 0 |
Pau López | 0 | 0 |
合計 | 32 | 28.6 |
トータル数は、アシスト期待値28.6に対して11人の選手が32アシストなので、現在のローマはチームで作ったチャンスから上手く得点していると考えられます。狼の強みは群れなのです。
結論
これで全25項目の如月のローマ分析は終了となります。
如月の結論としては――
ミキタリアンは想像以上に絶対的な選手だった!
全25項目中9項目がトップで、さらには7項目で2位というミキタリアンは、実際に試合を観る以上にぶっちぎりでチームの大黒柱であり、攻守、組み立て、献身性など総合力では、ローマで歴代トップの選手かもしれません。彼がジェルヴィーニョやナインゴランのような、時代で語られるタレントでないことを、よりインパクトを持って世界に表現する為にローマは今シーズン惜しみなくスクデットを奪うべきだ。
昨日クラブは、フォンセカともめたジェコに対してキャプテンはく奪という懲戒処分にしました。これでフォンセカは、センターフォワードの優先順位をマジョラルに変えるでしょう。しかし、ジェコが本当に敗れたチーム内順位は、マジョラルではなく、ミキの台頭によるものなのかもしれません。
それはさておき、ここまでお付き合いいただいたみなさんは、
✅攻撃は機能しているのか?
✅守備はなぜ失点が多いのか?
✅フォンセカはローマに相応しいか?
これに答えが出せそうですか?それがたとえ難しくても、これまでとはまた違った角度からローマを理解できるようになったらこれを企画した甲斐があるというもの。
現代サッカーでは、ピッチで起こったほぼあらゆるものが数値化されているということをみなさんにも知って欲しいと思いこの企画を考えました。我々ファンは、直感と本能でサッカーを楽しむ権利を持ちますが、監督は、日々分析担当から提出されるこれらデータと、自身の経験や哲学を混合したものをチームに落とし込みます。1%でも勝率を上げんと、これを日々粛々と解析しているサッカークラブの方々には頭が下がる思いです。
しかし、この企画を通じて、ぼくは改めてサッカーはピッチで起こったことが全てだと感じています。準備された戦術、統計データに基づいたシステム、それをファンタジーで超えるのがサッカーなんだろうなとバカみたいにずっと信じています。だからこそ、戦術やデータを理解していれば、何がチームの準備してきたもので、どこからが個人のファンタジーなのか理解することができるのではないでしょうか。その点で、データも読めた方がもっとローマを様々な角度から楽しめるはずです。
タレント軍団、戦術至上主義、そんなサッカーがあれど、データ至上主義という監督はこれからも出てこないはずです。データは、あくまで羅針盤のようなもので、この羅針盤の見方を間違えば、進路を誤り、また周囲の風景を見ずに、羅針盤だけで暗い海原を航海することは不可能なわけです。なので、ご自身で試合を観たうえで、データを分析するという楽しみ方が一番健全なのかなと思いました。またシーズン後半に同じような企画をやりたいと思いますので、その際はよろしくお願いします。その頃には、ぼくももうちょっと語れる感じになっていることでしょう!
この企画に際して、色んな人の協力を得ながら作りました。
手前味噌ですけど、これ程ローマについて深堀りする企画力のローマ系商業サイトも、イタリアの新聞も存在しないと自負しています。そこを評価して頂けそうでしたら、この記事をリツイート、イイネして頂けると今後の励みになります。そしたら次も無理してがんばっちゃうんだからねっ!ということで拡散よろしくお願いします。狼は恩を忘れない。それではまた!
データスライド作成:TORA@インテル
資料提供:m♡o♡s♡h
追記:ローマのデータ分析家チアゴ・リール氏は、元々youtuberとしてサッカー分析をしていた人物で、今回ロマ速で取り上げたこういったデータサイトを参照していると思われます。現在のローマがどのように試合の準備をしているのか、興味がありましたらこちらの記事を読んでみて下さい。
コメント
素人の私には難しいすぎましたが読み応えのある面白い文章でした
ここに書かれてることが全て理解できた時もっとローマのことが好きになれると思います
孤高のロマニスタさん
感想ありがとうございます。
この特集で書かれていることは、仰る通り、分かればローマ、サッカーの見方を豊かにすると思っています。
より良い説明方法がないか模索しようと思います。
如月さん
実に興味深い分析ありがとうございました。次回として、キーパーの数値から見る検証を是非ともお願い致します。
ドンナルンマやハンダノビッチの安定感に比べ、何故不安で仕方のないゴールマウスなのか、数値的考察で是非ともご教示お願いします!
ここが想定以上のパフォーマンス出せれば、もっと上いけるんちゃうんか!